金メダルの成田緑夢「挑戦する方がワクワクする」 平昌パラリンピック
2人の金メダリストの間で、新しく”仲間入りした” 彼は、弾ける笑顔でスタンドの声援に応えていた――。
平昌パラリンピック競技7日目の16日、パラスノーボード・バンクドスラロームが行われ、成田緑夢(近畿医療専門学校)が下肢障がいLL2クラスで金メダルを獲得した。成田は、12日のスノーボードクロスでは銅メダルを獲得しており、今大会2つ目のメダル。日本人としては、14日にアルペンスキー大回転で優勝した村岡桃佳(早大)に続いて、2人目の金メダリストの誕生となった。
スクリーンからも伝わった“挑戦心”
アルペンスキー競技の一つとして行われた4年前のソチパラリンピックで初代王者に輝いたエヴァン・ストロング(米国)。そして、そして今大会1種目目のスノーボードクロスで金メダルに輝いたマッティ・スールハマリ(フィンランド)。彼ら2人をおさえ、成田はついに世界の頂点に立った。
今シーズンのワールドカップ年間総合優勝を果たし、現在世界ランキング1位。そんな「成田緑夢」というアスリートの実力を知る者誰もが、この時を待ちわびていたに違いない。
正式競技としては今大会初めて行われたパラスノーボード。今大会2種目目の「バンクドスラローム」は、1人3回滑走し、そのうちのベストタイムを競う種目だ。
小雪が舞う中、成田はLL2クラスの最初の滑走者として登場した。
今回のレースも「挑戦」をテーマに滑ったという成田。その勢いは、とどまるところを知らなかった。回を追うごとに迫力が増していく成田の滑りには、見ているものを魅了させるものが確かにあった。
決してスピードを緩めず、勢いあまって手をつきそうになりながらも瞬時に体勢を整え、次々とバンクをクリアしていく成田。1ミリも失敗を恐れていない強気の姿勢に、気が付くと、両手を握りしめながら、前のめりになってゴール前の大型スクリーンを観ている自分がいた。それほど、彼の滑りからは伝わってくるものがあった。
「守ることはワクワクしない」
成田は1回目で50秒17の好タイムで、いきなりトップに立つと、2回目は49秒61、そしてさらに3回目は48秒68とタイムを上げ、後続の選手たちにプレッシャーを与え続けた。しかしライバルたちも、1回目より2回目とタイムを上げてきていた。
2回目を滑り終えた時点で、2位との差は0.4秒。成田はこう危機感を抱いていた。
「3回目でミスをすれば、表彰台にさえ上がれなくなる」
そこで、成田は勝つために、これまで一度もしたことがなかった「挑戦」をすることに決めた。
「序盤の5つ目のバンクで、それまではバンクに乗るようにして滑っていたのですが、最後の滑走では上から下に切るようにして滑ることにしました」
レース前半で加速のエネルギーが大きければ大きいほど、全体の滑走スピードは上がる。それが、成田の狙いだった。だが、当然リスクもあった。それでも挑戦した理由について、彼はこう言いのけた。
「守るものはないので」
これが「成田緑夢」というアスリートだ。
その結果、成田は2回目を1秒近くも上回る48秒68を叩き出した。このパフォーマンスにスタンドからもどよめきが起こり、氷点下にもかかわらず、会場は熱気に包まれた。
そして、成田の予想は的中した。後続のライバルたちも次々と好タイムを叩き出したのだ。もし、成田が2回目の49秒61がベストタイムのままだった場合、彼は金メダルを逃し、4位との差は0.1秒という僅差での銅メダルとなっていた。
「最高の気分です」
競技後、金メダルを獲得したことについての感想を聞かれると、成田は開口一番にそう言った。しかし、それは単に勝利を指しての言葉ではない。
「守ることって、ワクワクしないですよね。挑戦する方が、ワクワクする。それでメダルを取れなくても、別にいいかなって。だから僕は金メダルを取りたいと思って滑っていたのではなく、挑戦することにワクワクしながら滑っていたんです」
その結果が「金メダル」だったのだ。
挑戦し続けた末に、世界の頂点に立った今、「アスリート成田緑夢をほめてあげたいと思う」と成田。果たして、そんな彼の次なる目標は何なのか――。いずれにしても、彼の挑戦は、まだまだ続く。そして、まだまだ魅了させてくれるに違いない。
(文・斎藤寿子)