成田「完璧だった」銅メダル 平昌パラリンピック
平昌パラリンピック競技3日目の12日、今大会初めて正式競技となったパラスノーボードでは1種目目のスノーボードクロスが行われ、成田緑夢(近畿医療専門学校)が下肢障がいLL2のクラスで銅メダルを獲得した。
「僕にとっては、完璧なメダルでした」
その言葉にこそ、「成田緑夢」というアスリートの真の姿があるように思えた――。
成田にとって「パラリンピック」は、「オリンピック」と並んで「自分自身で初めて掲げた大きな目標」だという。その目標だった舞台の幕が、12日、ついに上がった――。
この日の成田は、午前に行われた予選から「世界ランキング1位」の存在感を示した。予選1本目で58秒21の好タイムでトップに立つと、予選通過を見込んで決勝トーナメントに体力を温存したかったのだろう。20人の中で唯一、2本目を棄権した。そして2本目でも、成田の記録を上回る選手は出ず、結局、成田は予選をトップ通過した。
そして、予選トップ16で争う1対1方式の決勝トーナメントでは、1回戦、準々決勝ともにスタートからリードする展開で危なげなく勝ち上がり、順当にメダル争いへと進んだ。
迎えた準決勝も、スタートからリードを奪ったのは、成田だった。その差は徐々に広がり、誰もが成田の勝利を確信していた。ところが、途中のバンクでのヒールターンでバランスを崩して転倒。後方を滑っていた相手に抜かれ、敗れた。
その時点で「金メダル」の可能性は絶たれた。しかし、成田に落胆はなかった。自分自身に常に問いかけていたのは、「挑戦していたかどうか」のただ一つ。転倒は、挑戦した結果であり、成田は自分自身に合格点を与えていた。
この日、成田にとって最後のレースとなった3位決定戦。スタート地点に立った成田の心にあったのは「銅メダル」ではなく、やはり「挑戦」。集中力は、まったく切れていなかった。その結果、優勝候補の一人、エヴァン・ストロング(米国)とのレースに勝ち、銅メダルを獲得した。
初めてのパラリンピックでの初レースを終えた感想を、彼はこう語った。
「僕は、パラリンピックもほかの大会と同じかなと思っていたんです。でも、終わってみると、雰囲気や盛り上がりの度合いなど、やっぱり違っていました。『あぁ、これがパラリンピックなんだな』と。すごくいい経験になったし、面白かったです」
初めて「世界最高峰の舞台」を経験した成田は、実に楽しそうだった。
「僕は、メダルを取ること自体が目標ではありません」
W杯で優勝し、世界ランキング1位の成田には、当然「金メダル獲得」への期待が膨らんでいた。しかし、そんな周囲の反応をよそに、成田はいつもマイペースにそう答えていた。
「見ている人が、ドキドキワクワクするようなレースをしたい。そして、元気と勇気を与えられれば」
それが、彼の目標だ。
真っすぐで、何の迷いも感じられない彼のそんな言葉に、いつも魅了させられてきた。だが、あまりにも純粋すぎて、どうしても素直に受け止めることができずにいたことも確かだった。
競技後のインタビューで、「銅メダル」について、彼はこう答えた。
「僕にとって、完璧なメダルでした」
これほどまでに、自信と清々しさを持って、銅メダルを「完璧」と言えた選手はいただろうか。ぎりぎりでメダルを獲得した喜びとともに、どこかでやはり「悔しさ」が残っていることがほとんどであろう。だが、成田は違った。「銅メダルは完璧だった」と言い切ったのだ。
その理由について、彼はこう語った。
「今大会、僕が目標としていたのは『挑戦をやめないこと』。僕は失敗することは悪いことだとは思っていません。挑戦したうえでの失敗は、次につながる。その点で、今日はすべてのレースにおいて挑戦することができたと思っています。見ている人がドキドキワクワクするようなレースもできたんじゃないかな。だから、今、とてもハッピーです」
パラリンピックという「世界最高峰の舞台」に上がってもなお、彼の言葉にブレは一切なかった。「これが、成田緑夢というアスリートなのだ」。インタビューを聞きながら、そう心の底にしみわたってくるような感覚を覚えた。
彼の言葉、パフォーマンス、姿――そのすべてに「成田緑夢」の魅力が詰まっている。獲得した銅メダルは、そのひとつの「形」なのだ。
(文・斎藤寿子)