アスリートは「平和のシンボル」ソチを乗り越えたウクライナ
日本の新田佳浩がクロスカントリースキー男子クラシカル10㎞(立位)に出場し、金メダルを獲得した。競技のあった17日、レース場の近くのメディア・センターで仕事をしている4人組に取材を試みた。
「日本のメディアからはすでに取材を受けたわよ」
軽く断るように口を開いた女性は、ウクライナの公共エブ(EBU)」のスタッフだった。新田と首位争いをしたグリゴリー・ボブチンスキーの母国だ。大会も残すところ2日。どうしても聞きたいことがあると食い下がると、女性はすっと席を立ち、場所を変えて時間を作ってくれた。
ダリア・クスネソバさんはこの大会でウクライナの選手のインタビューを担当しているキャスターだった。連日メダルを獲得する選手を称えると、「(17日の時点で)6つも金メダルを取る活躍ぶりです。前回大会は大変でしたが、今回のウクライナチームは最後まで頑張ってくれるでしょう」と頬を緩ませた。
選手は平和のシンボル
ダリアさんが振り返るのは、前回大会の2014年のソチ冬季パラリンピックだ。
「あの時は、ウクライナの歴史上で最も難しい状況にあった大会でした。(ウクライナ南部の)クリミアを巡る問題がソチ冬季オリンピック・パラリンピックのときに起きて、紛争が始まってしまいました。オリンピック・パラリンピックの期間は戦争を止めるはずなのに、ソチの時にはそれが実現できませんでした」。
それでもウクライナの選手団は大会に参加すると、ソチパラリンピックでは金メダル5個を含む、25個のメダルを獲得した。
「選手たちは、平和のシンボルでした。メダルを取り、気持ちが沈んでいたウクライナを救ってくれました」とダリアさんは語る。
アスリートの活躍を届けるメディアの役割
選手たちの活躍ぶりを伝えたのがメディアだった。ダリアさんはメディアの役割についてこう話す。
「世界の人にアスリートの活躍を届けるメディアは、社会にとって重要な役割を担っています。メディアがどう伝えられるかはとても重要でした。そして、オリンピックとパラリンピックは同じように扱い、障がいの有無も関係なく伝えていくべきです。どちらも同じアスリートなのですから」。
ウクライナの選手とエブのメンバーは、4年前の苦境をともに乗り越えて平昌冬季パラリンピックを迎え、18日に無事に競技と取材を終えた。
49ヶ国・地域の570人の選手が参加し、オリンピックの盛り上がりを引き継いだパラリンピックも幕を閉じた。2年後には東京大会が、4年後の冬季大会は北京へと移される。これからも選手が力を発揮できる環境と、世界のメディアが平和のシンボルを伝えられるような大会開催を期待したい。
(文・上垣喜寛、鈴木貫太郎)