パラ銀・新田と競ったフィンランド選手の意外な職業
平昌冬季パラリンピックの距離スキー男子スプリント・クラシカル(立位)決勝で14日、新田佳浩が銀メダルを獲得した。新田が準決勝、決勝で競り合い、ともにメダリストとなったフィンランドのイルッカ・トゥミスト(34)は、「新田の親友でありライバルでもある」選手だ。今回は、同選手の意外な職業に注目した。
農家×アスリートという生き方
パラリンピックに出場する全670選手のプロフィールが収録された選手名鑑に、”Occupation(職業)”の欄がある。イルッカ・トゥミストの職業欄には、”athelete ”(アスリート)と”farmer”(農家)が並んでいる。
「この大会で現役は終わり。あとは農家として歩んでいくよ」
レースを終えたばかりのイルッカは晴れやかな表情でこう語った。イルッカは、スキーのアスリートでありながらも、農業者としての顔を持っている世界でも珍しい選手だ。
「毎朝6時に起きて朝食を食べて、牛たちの世話をするんだ。9時頃までに餌やりなどの仕事を終えて、練習はそれから。ランチを食べて昼寝の後、農場の仕事をしてまた少し練習。帰宅前に農場で餌やりをするというのが毎日のサイクルだよ」。
農家の両親から生まれたイルッカは、2年前に父の牛舎を引き継ぎ、本格的に農業をスタートさせ、農家×アスリートの兼業生活を始めていた。現在は約70頭の乳牛を飼育している。
「牛舎に行けばトレーニングのことは頭から離れていい気晴らしになる。それも精神的には良いことだよ」と農業との相性の良さを語る。
アスリートといえば、練習に練習を重ね、自身の身体を磨き上げていくイメージが強いかもしれない。しかし、イルッカは農業と練習を組み合わせるように、一日のタイムスケジュールを組んできた。
「もちろん農業とスポーツの兼業は忙しくて大変だけど、両方とも大好きなことだったから続けられたんだ」。
パラアスリートの多様な仕事の組み合わせ
「農業に限らず、競技人生の先にやるべき仕事が見えているのは、選手として精神的に大きはずだよ」とイルッカは話す。
今大会の全選手のプロフィールを眺めてみると、アスリートとは別の顔をもつ選手像が浮かび上がってくる。モデルや弁護士など、多様な仕事をかけ合わせたキャリア&ライフスタイルを築いている選手は少なくない。それでもイルッカへのインタビューからは、これからの道である農業への愛着が節々に感じられた。
「帰ったらこの銅メダルを誰に見せるかって?もちろん牛たちにも見せるだろうけど、多分彼らはメダルの色なんて気にしないだろうね。動物は人間とは違ってちょっとの失敗でも暖かく迎えてくれるんだ」
(文・上垣喜寛、鈴木貫太郎)