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パラコラム

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車いすテニスの未来へ――世界トップ選手が直接指導!その思いとは?【第3回 車いテニススペシャルクリニック】

参加者(右)にラケットの振り方を教える眞田選手(撮影:越智貴雄)

世界の舞台で活躍するプロの車いすテニス選手たちが、障害の有無に関わらず初心者から上級者まで幅広い層を対象に直接指導するイベント「第3回 車いテニススペシャルクリニック」が8日、有明テニスの森インドアコートで開催された。

イベントには、昨年開催されたパリパラリンピック女子シングルス金メダリストの上地結衣選手(三井住友銀行)やアテネパラリンピック男子ダブルス金メダリストの齋田悟司選手(シグマクシス)ら、6人のプロ選手が講師として登場。4歳から58歳の40名を超える参加者に対し、熱のこもったレッスンが行われた。

憧れの上地選手(右)と写真を撮影する田部さん(撮影:越智貴雄)

イベント情報をSNSで見つけたことをきっかけに、広島県から初参加した小学2年生の田部詩和さん(8)は、「緊張しましたが、憧れの上地選手とラリーができて、とても嬉しくて楽しかったです」と笑顔を見せた。週2回の練習を続けている田部さんは、将来の夢について「世界一のテニスプレーヤーになること」と、屈託のない表情で語った。

イベント発起人・眞田選手の思い

参加者に話を行う眞田選手(撮影:越智貴雄)

「車いすテニスの楽しさと奥深さを、もっと多くの人に知ってもらいたい」――そんな思いから始まったイベントは、今年で3回目を迎えた。
イベントの発起人であり、2012年のロンドン大会から昨年のパリ大会まで、4大会連続でパラリンピックに出場している眞田卓選手(TOPPAN) に、イベント開催の背景や車いすテニスの未来への思いを聞いた。

ーーイベントを始めたきっかけは?

TTC(吉田記念テニス研修センター)のキャンプで、プロ選手が初心者と一緒にレッスンするクリニックに参加したことがきっかけです。僕自身、その経験がプロを目指す転機となり、とても大きな影響を受けました。この素晴らしい機会を次世代にも提供したいと思い、当時の講師を招いて、車いすテニスクリニックを復活させました。

力強いサーブを披露する眞田選手(撮影:越智貴雄)

ーー3回目となる今回のイベントの感想は?

とても多くの参加者が集まり、あちこちで笑顔が見られた素晴らしい機会でした。プロ選手が主体となり、参加者が楽しめるよう工夫していたのが良かったです。やはり、選手自身が率先してイベントを作り上げることが大切だと感じました。僕自身も充実感を得られ、意義のあるイベントになったと思います。

ーー今回、特に印象に残ったこと出来事はありましたか?

子どもたちが「ありがとうございました!また来ます!」と言ってくれたことがとても嬉しかったです。また、障害者手帳は持っていないけれど、車いすでないとテニスができないという方が参加し、「楽しかった、続けます」と言ってくれたことも印象的でした。
これまでは競技を行うレベルの選手参加が中心でしたが、今回はより幅広い層にアプローチできたと感じています。車いすテニスを単なる競技スポーツではなく、多くの人に楽しんでもらえる生涯スポーツとして広めるための新たな一歩になったと思います。

車いテニススペシャルクリニックの様子(撮影:越智貴雄)

ーー今回、初心者から上級者まで3クラスに分けた理由は?

車いすテニスは注目されるようになってきましたが、まだ人口が少なく、できるクラブも限られています。競技の発展には、より多くの人に参加してもらうことが重要です。そこで、障害の有無に関わらず、幅広い層が楽しめるイベントを目指しました。従来はジュニア育成や強化が中心でしたが、社会の多様化が進む今、すべての人が楽しめる環境を作ることが必要だと考えています。
また、車いすは障害者だけのものではなく、高齢化社会の中でパーソナルモビリティとしての役割も増えていくはずです。車いすテニスがより多くの人に親しまれることで、スポーツとしての普及と社会的な意義を高められると考えています。

ーー車いすテニスの普及に向けた課題は?

大きな課題は、車いすテニスのレッスンを行っているクラブが少ないことです。指導者不足、設備の未整備、移動の不便さ、レンタル用車いすの不足など、さまざまな障壁があります。例えば、クラブまでの移動手段が限られていたり、レンタル車いすが合わなかったりすると、それだけで参加を諦めてしまう人もいます。
普及のためには、各クラブにレンタル用車いすを充実させること、指導者を増やすこと、バリアフリー環境を整えることが不可欠です。また、コミュニティの存在も大事です。顔見知りが増え、「また一緒にテニスをしよう」と誘い合える環境を作ることが、スポーツを続けるきっかけになると考えています。

車いテニススペシャルクリニックの様子(撮影:越智貴雄)

ーー今後の展開について

車いすテニスは、新しいフェーズに入ってきています。僕が初めて出場したロンドン(2012年)、リオ(2016年)、東京(2021年)では、まず競技を「知ってもらう」ことが重要でした。そこから、人気のあるパラスポーツとして認知されてきて、「さらに発展させる」段階に入ってきたと考えています。
今後は、車いすテニスだけでなく、他のスポーツとも連携しながら多様性を意識した展開をしていきたいです。例えば、デフテニスやブラインドテニスとのコラボも考えています。テニスは生涯スポーツとしての魅力があり、障害の有無を問わず楽しめる競技です。このイベントをきっかけに、さらに多くの人が関わる場を作っていきたいですね。

取材・文:越智貴雄

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