倉橋香衣の笑顔がガチガチに緊張した橋本勝也を救った「俺ってこんな感じで楽しんできたよな」【車いすラグビー金メダル会見全文】（3）
金メダルを手に笑顔の倉橋（左）（撮影：越智貴雄）
パリ・パラリンピックで車いすラグビー史上初となる金メダルを獲得した日本代表選手が9月3日、パリ郊外で記者会見を開いた。
会見に出席したのは、池透暢（43＝日興アセットマネジメント）、池崎大輔（46＝三菱商事）、倉橋香衣（33＝商船三井）、橋本勝也（22＝日興アセットマネジメント）の4人。会見は、金メダルに至るまでの苦労から日本代表チームのウラ話まで、笑いあり、感動ありの40分間だった。4人が話した全文を掲載する。
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決勝戦、強いタックルを受けながらもボールをキープしトライを決めた橋本（撮影：越智貴雄）
倉橋：東京の時に結果が残せなくて、準決勝で負けたときにグチャグチャの感情になって、「もうあんな思いはしたくない」とずっと思っていました。
でも、それよりも東京大会の時は全然楽しめてなかったなと。大会自体も楽しめてなかったことを後悔したので、今回は絶対に楽しもうと思って臨みました。
でも実際は、楽しもうっていう思ってやっているのではなくて、めちゃくちゃ楽しくて。一つ一つのプレーも、1個1個の試合も、この大会全体をすごい楽しめたことが、私の中で良かったなと思っています。あっという間で、すごく楽しい5日間でした。
橋本：東京大会で悔しい思いをしてから「パリ大会で金メダルを取るためのキープレイヤーとなる」という目標を掲げて、この3年間、トレーニングを重ねてきました。その中で、倉橋選手と同じで、僕も「車いすラグビー自体を楽しむことで結果がついてくるのかな」と思いながら、トレーニングをしていました。
ただ、大会が始まる2カ月ぐらい前から、大会期間中も、何か自分でもわからないプレッシャーを感じてしまっていて。吐きそうな毎日で、弱音しか吐けない日々があった。地元で一緒にトレーニングをしている人にも相談をして、「眠れないんです。自分のミスのせいで負けたらどうしよう」とか。そういう感情が巡り回って、何をしていいかわからない。
最後の最後まで力が入っていた
準決勝で勝利し、笑顔の橋本（撮影：越智貴雄）
トレーニングをしているときは忘れられるけど、寝る前、起きてからとか。夢の中でそういった（ミスをした）夢を見てしまうことも多くて、パラリンピックで金メダルを取るというプレッシャーって、こんなにでかいんだなと感じました。
大会期間中も、なかなか自分の思うプレーができないことも多くありました。楽しめた試合もあれば、逆に楽しめずに力が入ってしまっていた試合も。特に準決勝では、最後の最後に逆転できましたけど、自分自身はプレーに力が入ってしまっていて、肩に力が入ってしまっていて、全然楽しめていなかったんです。第4ピリオドが終わるまでは。
ただ、延長戦に入ることが決まって、スタートで「行くぞ！」と言われた時にさらに緊張したんですけど、倉橋選手を見たらすごい笑顔で。なんだろう、笑っていたというか。それで「あ、俺って今までこんな感じで楽しんできたよな」と。そこで一気に肩の力がスーっと抜けて、いつも通りのプレーができて、準決勝の壁を越えることができました。
決勝も最初はちょっと硬かったんですが、倉橋選手と組むことが多くて、353150で一緒にハイスクリーンを組んでる時に倉橋選手の顔を見て自分自身を落ち着かせて。それでいつも通りのプレーができて結果に結びついたので、安心しました。
──決勝戦の結果を受けて、世界ランキングが1位になりました。
準決勝終了後、笑顔の橋本（左）、池（右）、池崎（右から2番目）（撮影：越智貴雄）
池：今は正直、嬉しさしかなくて、今後どうあるべきかまで考えられない。世界ランキング1位になったことも、金メダルを獲れたことも、「これで真のチャンピオンじゃん」という喜びしかないです。僕の中には。
ただ、日本代表として戦う中では、新しいチャレンジを続けながら進んでいかないといけない。世界のラグビーも近年似てきているんですよね。だからそれを新しく変えながら、それを打ち破る術を、チャンピオンらしく作り上げていくことも大切なのかなと、今はぼんやりと思っているところです。
──池崎選手は、東京大会の3位決定戦の後、橋本選手に「次はお前の番だぞ」と声をかけました。
池崎：そういう言葉を東京の時にかけました。でも彼は自分の努力でこの3年間、ここまで成長することができた。それを金メダルというところに導いてくれた選手の1人で、ちゃんと有言実行してくれた。
外から見ていて、本当に強いんだな、ここまで成長したんだなと。変な言い方ですけど、親目線みたいな感じで見ながら、すごく喜びながら「頼もしい選手になったな」と思いました。
言葉をかけようとすると、涙が出てしまう
──準決勝の前にも、池崎選手は橋本選手に「頼んだぞ」と言ったそうですが。
池：耳元でね。
池崎：はい、言いました。そしたら、「吐きそうだった」と言ってました。だけど、吐かずにああいうパフォーマンスが出たというのは、それをしっかりと自分の中で飲み込んで、しっかりパフォーマンスに繋げた。結果オーライじゃないですか。
池：耳元でささやいたから、吐きそうになったんだよね。
橋本：違う違う、池さん、それはよくない。よくないです！
池崎：そういうことだったのか～？
橋本：そんなことないです！（笑）
池崎：あんまり言いたくないんだけど、いろんな言葉をかけたいんです。池にもそうだし、（倉橋）香衣ちゃんにもそうだけど、でも何かを言おうとすると、言葉より涙が出そうになるんです。いろんな思いがあるので。
池：いいですよ、泣いちゃっても。
池崎：なんで僕……、以上です。
＞＞（4）に続く
