瀬立モニカ “東京2020切符” カヌー日本人第一号! パラカヌー世界選手権2019
まさに“有言実行”。瀬立モニカが世界の舞台で驚異的な“成長”を示し、女子パラカヌー界の時代を変える好レースを披露した――。
ハンガリー・セゲドで開催されているパラカヌーの世界選手権。24日、パラカヌー瀬立モニカが女子200m(KL1)決勝に臨み、58秒93のタイムで5位に入る快挙を成し遂げて東京パラリンピックの出場枠を獲得。同時開催されている、五輪の切符がかかったカヌースプリントの世界選手権とあわせて、“東京切符”日本人第一号となった。
スタートでリオ金メダリストをリード
各レースの決勝が行われる土曜日とあって、会場には大勢の観客が詰めかけていた。晴天に恵まれ、淡い青色が広がる空の下、瀬立がスタート地点に姿を現した。その表情は固く、予選、準決勝とは違った緊張感が見え隠れしていた。
「昨夜はあまり眠れなくて……目をつぶると胸の鼓動が聞こえてくるんです。今朝も10秒に1回、深呼吸しなければいけない感じでした」
しかし、コーチをはじめ周囲からの手厚いサポートのおかげで、なんとか気持ちを落ち着かせてレースに臨むことができたという瀬立。いつものルーティンである息を2度吐き、大きく深呼吸すると、緊張感は集中力へとスイッチした。
「よし、やるしかない」
そう覚悟を決め、いつものように頭の中でイメージしながらピッチのリズムに乗り、スタートを切った。いつもよりはやや遅れたかのように感じられたが、それでも隣のレーンのリオパラリンピック金メダリストが横にいないことを確認できた。自分が前に出ていることがわかると「よし、大丈夫!いける!」と焦ることなく、練習でやってきた通りに漕ぎ進めていった。
気持ちで競り勝ったラスト20m
追い風だった予選、準決勝とは違い、この日は向かい風。すでにその情報を入手していた瀬立は、2日前の準決勝のレース後には「少しレース・プランを練り直したいと思っています」と語っていた。だが、コーチとも相談した結果、「いつも通りに、思い切りいこう!」という決断を下し、これまでと同じように前半の終盤に4パドルの“力の抜き”を行い、後半に力を温存した。
そして、これまで課題としてきた最後の20m、「固くなってしまった」という瀬立だが、「何としても競り勝つ!」という強い気持ちを持ち続け、勢いよくゴール。これまで一度も勝つことができなかったリオパラリンピック金メダリストのJeanette Chippington(イギリス)に0.31秒差で競り勝ち、5位でフィニッシュした。
「やった!嬉しい!嬉しいです!こんな気持ちは初めてです!」
速報で5位に入ったことを確認すると、瀬立は興奮冷めやらないという様子で喜びを口にした。
2日前、決勝進出を決めた際には「今、すごく調子がいい。なので、決勝は調子に乗りまくりたいと思います!」と語っていた瀬立。その宣言通り、“調子に乗って” パラカヌーでは日本人最高位という快挙を成し遂げてみせた。
“世界一”の伸びしろを武器に狙う東京のメダル
そして、世界のライバルたちにとって、この大会で瀬立への印象はガラリと変わったはずだ。3年前のリオパラリンピックではトップとの差は10秒以上開いていた。その後、徐々にトップ選手たちとの距離は縮まってきてはいたものの、それでも今年5月のワールドカップでは6秒以上離されての6位に終わっている。
ところが今大会、瀬立は予選でトップとの差を3秒にまで縮め、さらに決勝ではリオパラ金メダリストを破る快挙を成し遂げてみせたのだ。わずか3カ月の間で、これほどの伸びを見せている選手は他にはいない。いよいよ世界トップがはっきりと見えてきた。
今大会で6位以内に与えられる東京パラリンピックの出場枠を獲得。世界選手権前には「東京への切符を持って笑顔で帰国します!」と語っていた瀬立だが、まさに“有限実行”の結果を出してみせた。
瀬立にとっては2度目となるパラリンピックまで、あと1年。目指すものは、ただ一つだ。
「今回、5位に入れたということは、もう狙うのはメダルしかありません。あと1年間、死ぬ気で練習します!」
瀬立モニカ、21歳。“世界一”の成長スピードを強みに、東京では表彰台に上がる。
(文・斎藤寿子)