日本身体障がい者水泳連盟 世界初の“ゆる~い挑戦” ~四角いプールが、笑顔で揺れた~
なんの変哲もない四角いプールは「単に泳ぐだけの所じゃない!」ということが、2017年12月3日(日)に証明された。年齢、性別、障がいの有無、運動神経があるなしなど、一切関係ない。しかも負けても楽しいと思える、誰でも楽しくゆるーいスポーツを創り出し、推進している世界ゆるスポーツ協会(代表理事・澤田智洋氏)と日本身体障がい者水泳連盟(会長・河合純一氏)がタッグを組んで世界初、第1回ゆるプル選手権が 南長崎スポーツセンター(豊島区)で開催された。
世界初のゆるプル選手権って、いったいなんだ!
「選手権」は、参加者が4チームに分かれ(各チームにパラ選手2名ずつ参加)、始まった。まずは澤田氏の「10年後、20年後まで続いたら今日参加した人たちは歴史の証人になる!」という挨拶に始まり、続いて河合会長が「2100年のパラリンピック種目になっているかもしれないという願いを込めて、今日は楽しく、優勝を狙ってください!」と選手たちの前で開会宣言をした。
世界初の大会だけに、誰もが初めての競技ばかり。カッパリレー、人間釣り、シンクロシナイズドスイミング、プールサバゲー。
カッパリレーは、水球用の帽子にカッパ風の皿を付け、その上に鈴の入ったボールをのせて水中を歩く。ボールがバトン代わりだ。競り合っている時、ボールを落とした時などは、「カッパ」に向かって応援の声も一層大きくなる。
人間釣りは魚の帽子をかぶった人が浮輪に入り、浮輪についた紐をプールサイドから引っ張り、壁に着いたら向こうの壁から「魚」が変わり、また紐を引っ張ってプールを行き来してスピードを競う。
シンクロシナイズドスイミングは、1,セクシーポーズ、2,両手横、3,両手上、4,両手前の4つうち一つのポーズを、音楽の合間に「ハイ!」という合図が出されたと同時にブラックゴーグルをしたチームのメンバーたちが一斉に出し、シンクロしていない人が多いチームほど高得点。1分半の音楽が流れている間中、合図とともにポーズを取るというなんともおかしな競技である。
プールサバゲーは、4人一組で頭に磁石で付いたスポンジボールを水鉄砲で落とし合う、ゲーム要素の大きな競技。
真剣にやればやるほど、選手たちからも応援者からも笑顔がこぼれていた。
みんなが真面目に考えた、プールでできるおかしなこと
半年前から準備をしたというが、いったいどういう拍子でこんな面白い競技が生まれたんだろうか。シンクロシナイズドスイミングを最初に思いついた、同連盟の山本さんは「シンクロしたら普通だし、シンクロしなかったどうだろうと思って、この名前を提案しました。それからみんなで話し合い、ポーズの可動域は大丈夫か、実際に選手やスタッフにプールで模擬をしてもらい確認して決めました。結果的にはみんな爆笑ですが、決まるまで大まじめでした。細かいルールが確定したのも2~3日前。もうドキドキでした」と明かした。
そんな中、ふとプールを見ると河合会長がシンクロシナイズドスイミングのデモンストレーションをした後、カッパの帽子をかぶって泳いでいる。そしてこう言った。「シンクロシナイズドは、案外激しいですよ。でも、ノリノリでやると楽しいですね。今日は、プールに入るのをためらう人たちのきっかけになればと思って、とりあえずやろうということで実行に移しました。実は、イグノーベル賞を狙ってます(笑)」となかなか会長自身がゆるゆるのユーモアたっぷりだ。
そして「将来は地域の連盟も一緒になってやりたいですね。選手発掘のために行う合宿の最終日のレクリエーションとして実施してもいい。もう次へ向けて新しいアイデアもあります」と、カッパ姿で抱負を語った。
プールサイドには、表情をほころばせて見つめる人がいた。豊島区の藤田力氏だ。「健常者と障がい者が一緒にスポーツをしたことはなかったので、どうしていいのか分かりませんでした。でも、今日は本当にやって良かったです。バリアフリーの施設であれば、過剰な気づかいも心配もいらないことが分かりました。結局、心のバリアを作っているのは健常者なんですね。区の意識も変わると思います。これからはどの競技にも協力していきます」と語った。
前述の澤田氏も「カッパはお子さんには難しかったかもしれませんが、どれも楽しくできることが分かりました。今後も誰もが楽しめるゆるスポーツを広げていきたいと思います。次は、ウィルチェアのスポーツ(ラグビー、バスケット)をゆるゆるしたいですね」と今日の成果に目を細めていた。
成績は4競技に各チームが1位だったため、「同点により全チームが優勝!」となんともゆるゆるの結果が発表されると、拍手がわいた。参加した女の子から「またやりたい」との声を聞き、河合会長、思わずガッツポーズ! 四角いプールが楽しく揺れた1日が終わった。
記事:棟石理実