憧れの世界王者の教えを胸に 大分国際車いすマラソンに初出場した14歳最年少ランナーの成長と涙
第43回大分国際車いすマラソンが17日に開催され、パリ・パラリンピックのメダリストら国内外から集まった190人の選手が大分の街を疾走した。男子ハーフマラソン最速クラス(T34/53/54)では、パリ・パラリンピック短距離出場の生馬知季選手が44分04秒で大会4連覇を達成し、パラリンピアンとしての貫禄を見せた。
そんなトップアスリートらも参加する国際大会に、中学2年生の今大会最年少14歳で初出場を果たしたのは福岡県在住の和氣佳汰選手。ハーフマラソンを1時間16分45秒のタイムでゴールし、完走者81人中56位という好タイムの結果だった。
車いす競技を始めて以来、ずっとこの舞台で走りたかったという和氣選手は、レース後、「とにかく楽しかったです。(フルマラソンの)速い選手とかが横切ったりするのがやっぱり凄くて、自分もああいう風になりたいと思うし、なるためにいっぱい練習したくなりました。」と、笑顔で話した。
世界王者との出会いが生んだ夢
和氣さんが競技用の車いすに初めて乗ったのは、幼稚園の頃。「何かスポーツをしたい」と母親に頼んで探してもらった車いす競技の練習会に参加したのがきっかけだった。「風を切るのが楽しかった」と、車いす競技にのめり込むようになった。
小学校1年生のとき、練習会の仲間から「世界最高峰の選手たちが集まる車いすマラソン大会が隣県の大分市で毎年行われている」と教えられ、大分国際車いすマラソンを見学に行った。そこで、「世界一速い選手は誰だろう?」と興味を持ち、現世界記録保持者でもあるスイスのマルセル・フグ選手の存在を知ったという。
憧れのマルセル選手の言葉
その後、毎年のように大会の応援に訪れ、マルセル選手と一緒に写真を撮ったり、会話を交わす中で交流を深めていった。そして、憧れのマルセル選手のように大分国際車いすマラソンに出場することが夢になっていった。
最初の出会いから数年後、和氣さんはマルセル選手に「強くなるにはどうしたらいい?」と尋ねた。 すると、マルセル選手は笑顔で、「強くなるには、漕ぎ続けることだよ。練習頑張ってね」と答えた。さらに、その言葉を手書きで書いたTシャツをプレゼントしてくれた。その出来事は和氣さんにとって大きな励みとなり、その後の練習を支える原動力となった。そして、ついに今年、大会に出場できる14歳になり、その夢を叶えて、見事に完走を果たした。
最速ランナーたちの背中を追いかけて
今大会、マルセル選手は怪我のため不参加だったが、パリ・パラリンピックマラソン銀メダリストの中国の金華選手や銅メダリストの鈴木選手と同じ舞台を走ることができた。
「やっぱ、かっこよかった」
憧れの選手たちが横を通り過ぎる姿を目にし、和氣さんの目は輝いていた。
次の目標を尋ねると、「初マラソンは緊張しましたが、とても楽しかったです。今後は自己ベストを更新していきたいです」。さらに、将来の夢は、「パラリンピックのトラック種目(T34=脳性麻痺クラス)に出場したい」と話す。
涙に込められた思い
ゴール直後、和氣さんは感極まって涙を流していた。その理由を聞くと、少し言葉を詰まらせながらこう答えた。「今まできついこともあったんですけど、いろんな人に支えられてきたので、それがちょっと気持ちとして….」
涙にはこれまでの努力と支えてくれた人々への感謝の想いが込められていた。14歳という若さで国際大会という大舞台に挑み、好記録で完走した和氣さん。その姿には、彼自身の努力と支えてくれる人々の存在、そして憧れのマルセル選手との特別な絆が刻まれている。
取材・文:越智貴雄